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福岡地方裁判所久留米支部 平成4年(わ)134号 判決

主文

被告人を懲役二年六箇月に処する。

未決勾留日数中三五〇日を右刑に算入する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人A子、同B、同C及び同Dに支給した分は被告人の負担とする。

本件公訴事実中非現住建造物等放火の点については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡県久留米市《番地略》甲野ビルに事務所を置く甲野建設工業株式会社に経理事務員として勤務し、同会社の現金、預金の管理、出納等の業務に従事していたものであるが、

一  別紙犯罪一覧表(一)記載のとおり、平成三年九月一九日ころから平成四年六月二五日ころまでの間、前後二二回にわたり、同市《番地略》株式会社乙山銀行津福支店開設の右甲野建設工業株式会社代表取締役B名義の普通預金口座から、三万七七二五円ないし一八四八万二九三四円の預金の払戻しを受け、同会社のため業務上預かり保管中、いずれもそのころ、右甲野建設工業株式会社事務所において、右預かり金のうち約三万円ないし約二五二万円、合計約一六三二万二九五五円を自己の用途にあてるため着服して横領し、

二  別紙犯罪一覧表(二)記載のとおり、平成三年九月二五日ころから平成四年二月二五日ころまでの間、前後六回にわたり、同県三潴郡《番地略》株式会社丙川銀行城島支店開設の右甲野建設工業株式会社代表取締役B名義の普通預金口座から、一四一万一八九〇円ないし七七三万六八九一円の預金の払戻しを受け、同会社のため業務上預かり保管中、いずれもそのころ、同支店において、右預かり金のうち各一三万円、合計七八万円を自己の財形住宅貯蓄保険料として丁原生命保険相互会社の預金口座宛に振込送金して横領し、

三  同年三月二日ころ、前記甲野建設工業株式会社事務所において、不動産賃貸料として支払いのあった現金五八万五〇〇〇円を同会社のため業務上預かり保管中、そのころ、右事務所において、右預かり金のうち二二万円を自己の用途にあてるため着服して横領し、

四  同月一〇日ころ、前記甲野建設工業株式会社事務所において、雑工事代金等として支払いのあった現金六一万五九四〇円を同会社のため業務上預かり保管中、そのころ、同事務所において、右預かり金全額を自己の用途にあてるため着服して横領したものである。

(証拠の標目)《略》

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、判示一別紙犯罪一覧表(一)(以下「一覧表」という。)記載の各犯行には、被告人がその払戻し自体に関与していないものが一部あるほか、被告人がその払戻し自体には関与していても、払戻しを受けた金員は甲野建設工業株式会社(以下「会社」という。)のために使ったから、被告人が着服したとはいえないものもある旨主張し、被告人も公判においてこれに副う供述をする。そこで、判示のとおりの事実を認定した理由について補足して説明する。

二  前提事実

まず、前掲各証拠によれば、右各犯行につき、一覧表記載の預金払戻し年月日に、判示一記載の普通預金口座から一覧表記載の払戻し金額が払い戻されていること、同払戻し金額とそれぞれの払戻し年月日における会社の振替伝票(仕訳日計表。検五九)の記載とを照合すると、一覧表記載の横領金額と同額あるいはそれを超える使途不明金が存在すること、右各犯行当時、会社の経理事務は、経理主任である被告人及びその補助者であるA子が行っていたが、A子に任されていた事務は、手元保管金三万円を限度とする各種支払い、雑小工事代金、賃貸家賃収受といった小口現金の出納等であり、大口の現金の出入金、銀行の払戻請求書の記入、振替伝票等の記載・保管等は、全て被告人に任されていたこと、会社内においては、被告人の経理事務に対する監督は、関係帳簿等の記載を形式的に照合する程度のものにとどまり、不完全であったことが認められる。

また、前掲各証拠によれば、いずれの犯行についても、それぞれその預金払戻し年月日当日あるいはその数日後に、一覧表記載の横領金額全額あるいはその一部にあたる額が被告人自身あるいは被告人の家族名義の銀行口座等に入金(一部振替)されていることが認められる。

以上認定した情況からすると、右各犯行につき、いずれも被告人が一覧表記載の横領金額を着服して横領したものと推認されるところである。

三  被告人の弁解の弾劾

1  これに対し、被告人は、第二一及び三二回各公判調書中の供述部分(以下「二一及び三二回公判供述」といい、その余のものも同様とする。)において、判示一の各犯行のうち、一覧表番号3の犯行については、その払戻しをした際の払戻請求書(検一二七、弁一三)の文字等は自分の手によるものではなく、また、同番号1、4、9の各犯行については、それぞれの払戻し年月日付け振替伝票上の各犯行に関わる記載の文字等はA子の手によるものであるから、いずれも自分が横領したものではないなどと弁解をする。しかし、右弁解内容は、被告人の会社での事務内容に関する前記二の認定事実に矛盾して不合理であり、被告人の二〇回及び二一回公判供述中の払戻請求書記載の文字等に関する部分も、全体として場当たり的で極めて曖昧であって、信用性が低い。

したがって、被告人の右弁解は信用することができないというべきである。(なお、弁護人は、一覧表番号5、20の各犯行についても、払戻請求書の文字等は被告人の手によるのではないと主張するが、被告人自身二一及び三二回公判供述において、いずれも自分の文字等であると明らかに認めているのであって、右主張は採用し得ない。)

2  一方、被告人は、公判供述において、判示一の各犯行中には、会社の行事等の際の飲食代・賞品代や、会社の支払金・裏金等にあてたものがあると弁解する。しかし、右弁解自体具体性がない上に曖昧であり、容易に信用することができない。とりわけ、裏金に関しては、会社において裏金作りが行われており、そのための帳簿操作は被告人自らが行っていたとする一方で、上司らから帳簿操作等について指示を受けていたわけではないと供述しているところ、もし真実会社で裏金作りが行われていたならば、上司らが被告人に帳簿操作等の指示をしないとは考えにくく、被告人の右供述は不合理であるというほかない。

よって、この点に関する被告人の弁解も信用することができない。

四  被告人の捜査段階における供述の任意性及び信用性

一方、被告人の検察官調書二通(検九〇、九一)及び警察官調書五通(同八五ないし八九)には、判示一の各犯行につき横領を認める旨の供述がある。

この点、弁護人は、右供述には任意性及び信用性がない旨主張する。しかし、関係証拠を検討しても、被告人の同供述の任意性を疑わせる事情は見受けられない。また、同供述は、被告人自ら使い込み一覧表を作成し、各犯行に関わる預金通帳や振替伝票の記載内容を前提に詳細かつ具体的にされていること、その内容は被告人の上司である総務部長のEの警察官調書(検五五。五六)のそれとほぼ完全に一致していること等に照らせば、その信用性についても肯定することができる。したがって、弁護人の右主張は採用できず、かえって、同供述により判示一の各犯行は十分証明されるというべきである。

五  以上の点を総合すれば、被告人が判示一の各犯行を行ったことは優に認められる。よって、判示一のとおりの事実を認定した次第である。

(法令の適用)

罰条

判示の各所為 包括して平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法二五三条

未決勾留日数の算入 同改正前の刑法二一条

刑の執行猶予 同改正前の刑法二五条一項

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文(証人A子、同B、同C及び同Dに支給した分につき)

(非現住建造物等放火被告事件について無罪とした理由)

一  右事件の公訴事実の要旨は、

「被告人は、福岡県久留米市《番地略》所在の甲野ビル二階に事務所を置く甲野建設工業株式会社に経理事務員として勤務していたものであるが、同社が平成四年五月一一日に所轄税務署による税務調査を受けることになったことから、右調査が行われたら自己の業務上横領の事実が発覚するものと危惧し、騒動が起きれば右調査が延期されるものと考え、同社が所有する右甲野ビル(六階建、鉄筋コンクリート造り)一階の理髪店の店舗(F管理、床面積約六八・六七平方メートル)に放火してこれを焼きしようと企て、同日午前三時ころ、同店舗において、床の上に灯油をしみ込ませた毛布を置いた上、点火した新聞紙をこれに落として燃え移らせて火を放ち、さらに、右毛布から床等に燃え移らせ、よって、同社所有の人の現在しない右店舗の床の一部を焼きした。」

というものである。

二  被告人は右の公訴事実に対し、公判において、犯行時間ころ被告人が同ビル駐車場に行っていたことは認めるものの、右理髪店の店舗(以下「被害店舗」という。)に放火した事実を否認する。一方、被告人の捜査官に対する供述調書中には、被告人が放火の事実を自白した内容が記載されている(以下「捜査段階における自白」という)。検察官は、被告人の右自白には、任意性及び信用性が認められ、他の証拠と相まって被告人が右犯行を実行したことを認定し得るものと主張する。これに対し、弁護人は右自白の任意性を争い、信用性についてもこれを否定する。

三  被告人と放火行為とを結び付ける証拠の構造について

本件については、犯人が被告人であることを示すような物的な証拠はなく、また、被告人が放火を実行するのを直接目撃した者もいない。被告人と犯人とを結び付ける証拠は、被告人自身の捜査段階における自白、本件火災の発生時に甲野ビルの向かい側の路上にいて、駐車場から赤色の普通乗用自動車を運転して道路に出て来た被告人をみかけ、会話を交わしたとする証人G及び同Hの第二回公判調書中の各供述部分(以下「G証言」などという。)、被告人から自白に副う話を聞いたという元同房者であったI子の検察官調書等の供述証拠に限られている。したがって、右公訴事実が認定できるか否かは、右各供述証拠が証拠として許容され、また信用し得るものであるか否かにかかるものである。そこで、まず被告人の自白が任意性を有し証拠能力を認められるか否かについて検討を加え、次に証拠能力が認められる場合にその内容が信用できるか否かを、G、H証言等の内容をも加味して、考察することとする。

四  自白の任意性について

1  被告人の捜査段階における供述の経過

被告人の公判供述その他関係証拠によれば、被告人の捜査段階における供述経過について以下の事実が認められる。

(一) 被告人は、平成四年七月八日、放火事件について任意出頭を求められて取調べを受け、当初は事実(前記公訴事実とほぼ同旨で、罪名を現住建造物等放火とするもの。以下「本件被疑事実」という。)を否認していたものの、やがてこれを認め、逮捕されるに至った。また、同日にはポリグラフ検査を受けている。

(二) 同月九日の取調べ及び検察官の弁解録取においても、被告人は本件被疑事実を認め、その動機については、同理髪店の管理者・店長であるFの妻が飼っている犬の糞尿の後始末に関する不満等から、嫌がらせのつもりで放火したものと供述していた。しかし、同月一〇日弁護人と接見した被告人は、その後に行われた勾留質問においては本件被疑事実を否認した。

(三) 一方、その後も、同月一二日、一三日には被告人が本件被疑事実を認める旨の自白調書が作成された。なお、同月一三日には、午前一一時三六分に弁護人から接見の申し出があったが、取調べ警察官は右調書作成が終わるまでこれに応じなかったため、午後二時一八分になって接見が行われた。

(四) 同日の弁護人との接見後から同月二二日までの間は、被告人は本件被疑事実を否認しており、この間は供述調書が作成されていない。

(五) 同月二三日になって、被告人は検察官の取調べを受け、否認から一転して、勤務先の金銭を横領した事実が税務調査において発覚するのを恐れて放火した旨の自白をした。

(六) その後、被告人は一貫して本件被疑事実を自白し、同月二九日、非現住建造物等放火罪で起訴された。しかし、同年九月三日に行われた第一回公判期日の罪状認否においては、公訴事実を否認するに至った。

2  以上の認定事実を前提に、被告人の捜査段階における自白の任意性について検討する。

(一) 弁護人は、被告人の捜査段階における自白のうち、警察官調書については、(1)取調べ警察官は、取調べにおいて、被告人に対し、自白をすれば刑の執行が猶予されるとの利益誘導を行った、(2)取調べ警察官は、被告人に対して連日にわたる過酷な取調べや脅迫的な取調べ等を行い、さらには、弁護人との接見をも妨害するなど、違法な取調べを行った、(3)取調べ警察官は、右のような取調べを行ったり、同年七月八日に被告人の意思に反してポリグラフ検査を受けさせるなどして、被告人にそのような取調べ状況から免れたいとの心理状態に陥らせ、事実上の供述強制を行った、などとして、その任意性がない旨主張し、また、(4)被告人が前記のように再度自白することになった同月二三日付けの検察官調書(検一〇三。以下「一〇三号調書」という。)についても、その取調べを行った検察官は、放火事件で執行猶予のついた事例があることを紹介した上で、被告人にもその可能性があるとか、現住建造物ではなく非現住建造物への放火として処理できる可能性があるなどの説明をしており、このような説明等は利益誘導にあたるから、同様に任意性がないと主張する。

(二) しかしながら、同月一三日までの間の被告人の各供述調書(検九七ないし一〇二)とその後の各供述調書(同四〇ないし四六、一〇三、一〇四)とは、前記のとおりその犯行の動機等について相互に異なる内容となってはいるが、それぞれの時期における供述内容自体は一貫していて、任意性を疑わせる事情は見受けられない。また、1のとおり、被告人の捜査段階における供述は、否認と自白の変転を繰り返していたのであって、このような変転の存在は、捜査官からその意思に反して利益誘導を受けたり供述の強制を受けた状況下における供述としては不自然というべきである。しかも、同月一三日までの被告人の右各供述調書については、いまだ任意捜査あるいは強制捜査の初期の段階であって、捜査官にとって被告人の供述態度が必ずしも明確にはなっていない時期であり、このような時期にあえて被告人の意思を強制してまで自白を得る必要は乏しい状況にあったということができる。

(三) また、右弁護人の主張(1)(2)(3)については、被告人の取調べにあたった警察官であるJが、利益誘導や脅迫的な取調べ等を行ったことはない旨明確に証言している。確かに、同証言中には、被告人に対して放火事件でも執行猶予になった事例を紹介したことを認める部分があるが、それだけで供述にあたっての利益誘導があったと評価すべき事情とはならない。

なお、弁護人との接見に関しては、1(三)記載の程度の事情は認められるものの、関係証拠によっても、それ以上に違法な接見妨害があったとの事実は認められない。

(四) 右弁護人の主張(4)については、被告人の公判供述、取調べ検察官であるKの証言等によれば、その取調べにあたって執行猶予事例等の説明が行われたことは認められるものの、このような説明があったことのみをもって利益誘導があったということはできない。一方、取調べ検察官が執行猶予を約束したようなことがないことは被告人自身が公判供述において認めているところであり、その他取調べにおいて利益誘導があったと窺われる事情は見受けられない。

(五) 以上のほか、関係証拠によれば、被告人には放火事件で逮捕された直後から弁護人が選任されていて、弁護人と被告人との接見も再々行われていたこと、弁護人から被告人に対し、捜査に対する態度についても助言がされていたことが認められること等も併せ考慮すれば、被告人の放火事件に関する自白に任意性がないとする弁護人の主張は採用できない。

五  自白の信用性について

1  弁護人は、被告人の捜査段階における自白につき、自白内容自体に不自然な変遷や不合理な点があること、秘密の暴露というべき点がないのみならず、客観的事実や他の証拠と矛盾する部分すら存在すること等に照らし、信用性がない旨主張する。

一方、検察官は、被告人の捜査段階における自白のうち一〇三号調書以降のものにつき、その内容は一貫し、関係者の供述や客観的事実に符合していて、合理性、具体性が認められること、ことに、放火状況についての供述は、捜査官には到底誘導できないほど詳細で犯人でなければ知り得ない部分が含まれていること等から、信用することができない旨主張する。

そこで、以上の各主張を踏まえ、以下では一〇三号調書以降の自白(以下「被告人の新自白」という。)の信用性について検討することとする。

2  自白以外の関係証拠によって認められる事実

被告人の捜査段階における自白を除く関係各証拠によれば、次の各事実が認められる。

(一) 火災後の被害店舗内の状況は、店舗内床中央付近に灯油の付着した毛布が残されており、床面はその周囲全面が焼きし、東側に筋条に強く焼きした部分が延びていた。天井部分については、毛布の残されていた位置の上部全体が熱によって変形したり塗装が剥げたりし、蛍光灯も落下していた。北側壁面の時計、西側のテレビ、西側壁面に取り付けられた鏡の回りの取付器具が熱によって変形していた。このような焼きの状況等から、この火災は放火と判断された。被害店舗の入っている建物は耐火構造となっていること等からして、火災が二階以上に延焼する可能性は少なかった(検二《実況見分調書》、同五《鑑定書》、同六《松本信治検察官調書》)。

(二) 本件火災直後の実況見分において、被害店舗内の扉のついた物置内の右壁際に、いずれも灯油が半分程入った一八リットル用ポリ容器二個が発見された。そのうちの手前側のポリ容器には、火災以前灯油が一杯に入っていた。また、同じく実況見分時には、ポリ容器の上にティッシュの箱や重ねた数脚の椅子が乗せられ、同容器手前にも健康飲料の箱二個やティッシュの箱などが積まれていた(検二・写真31、32及び立会人Fによる指示説明部分等)。

(三) 平成四年五月一一日午前三時ころ、被害店舗のある甲野ビルの火災警報器が鳴り出したが、同ビル前道路の反対側の建物前にいたG及びHは、その直後同ビル裏の駐車場から被告人が赤い普通乗用自動車を運転して道路に出てくるのを目撃した。被告人は、Gらの近くに自動車を停車させると、運転席に座ったまま窓を開け、同人らに対して、非常ベルが鳴っているが、誰かに知らせなくてもいいのかという趣旨の話等をした後、自動車のヘッドライトを消してその場を立ち去った(G及びH証言)。

(四) その後、H及びGが被害店舗の火災を発見し、Hは消火のため店舗内に入ろうとして、同ビルに居住しその管理者であるLとともに店舗道路側の出入口に駆けつけたが、シャッターが閉まった状態にあったために入ることができなかった。Hは、裏の駐車場側出入口に回って、煙が出てくるのを見て、ドアを開けようとしたが開かず、その後Lがマスターキーを用いて同出入口を開くまでは、被害店舗内に入った者はいなかった(H証言、検一六《L検察官調書》)。

(五) 被告人は、本件火災当日は、予定されていた税務調査に必要な書類を運ぶために赤の自動車で出勤する予定だったが、同ビルに居住している知人のM子に電話をしたところ、本件火災との関係で赤の自動車が疑われていると知らされたため、電車を利用して出勤した(被告人公判供述)。

(六) 被告人は、当時同ビルの所有者で二階に事務所のある甲野建設工業株式会社に勤務していた。同会社は、本件火災当日同事務所内で税務署の税務調査を受けることが予定されていた(検二六《甘木税務署への電話聴取書》、同二七《B警察官調書》等)。

3  右の認定事実を前提に、以下の各問題点について検討する。

(一) 灯油入りポリ容器の状況について

本件放火の際の灯油入りポリ容器の使用状況につき、被告人の新自白中には、「被害店舗内にある物置に気づき、灯油があるだろうと思って扉を開けたところ、壁際にポリ容器があるのが見えた。そこで、そのポリ容器をその場で左手で持ち上げ傾けて、物置の入り口近くの床の上に置いた毛布様の物にかけて浸み込ませた。ポリ容器を持ち上げた際には、その容量の三分の一位の量の灯油が入っているように感じた。その後、ポリ容器は元の場所に置いた。」旨の供述記載がある(検四三、四六)。

しかし、この自白内容は、2(二)の事実のうちポリ容器内の灯油の量に関する部分との関係で、明らかに合致しないものとなっている。また、同じく2(二)の事実からすれば、物置内にあった灯油入りポリ容器はいずれも取り出しにくい位置・状況にあり、犯人は灯油が一杯に入っていて相当重量のある手前側のポリ容器を持ち出して、その半分の量の灯油を犯行に使用したことになるから、真犯人であればその自白において、発見したときのポリ容器の数あるいはその周囲の状況、ポリ容器をどの様にして抱え上げ、取り出したのか、さらに容器を元の場所に戻した際の状況等について、具体的、詳細な供述がなされてしかるべきを、被告人の新自白を含め捜査段階の自白にはこのような供述はなく、誠に不自然というほかはない。

もっとも、F証言中、物置にあった二個のポリ容器のうち、灯油が一杯入れてあった手前の容器の位置が火災後に動いていたとする点は、ポリ容器の灯油を使用して放火したとする被告人の右自白内容に符合するかにみえる。しかし、Fは、本件火災直後の実況見分時には、ポリ容器を置いていた位置は変わっていない旨指示説明を行っていること、同人の警察官調書(検二二)では、右の位置関係については供述されていないこと、さらに、同人の警察官調書(同二三)にあっては、置き場所の変化について否定されていることからすると、F証言の右部分は必ずしも信用することができず、これをもって被告人の自白内容が裏付けられたということはできない。

結局、灯油入りポリ容器の使用状況に関する被告人の新自白は不自然であって、信用することができないというほかない。

(二) 発火直後の被害店舗駐車場側出入口の鍵の状況について

被告人の新自白中には、放火後被害店舗から出た際の状況について、火勢が強くなり怖くなったので、店舗駐車場側出入口の鍵はかけないまま外に出て、自分が乗ってきた車に戻った旨の供述記載がある。しかしながら、H証言によると、同人が火災に気づいて駐車場側出入口から被害店舗内に入ろうとした際には、同出入口扉に鍵がかかっていて入ることができなかった事実が認められる。右事実に照らすと、被告人のこの点についての自白内容も客観的状況に相反するものであって、自白の信用性を疑わせる事情となる。

この点、検察官は、右H証言について、同人が被害店舗の扉とこれに隣接する店舗の扉とを取り違えた結果、真実は被害店舗の駐車場側出入口には鍵がかけられていなかったのに、鍵がかけられていたものと誤認し、証言したものであると主張している。しかし、現に火災が発生している店舗の出入口を取り違えるということ自体極めて不自然といわざるを得ない上、被害店舗の右扉の把手は棒状であるのに対し、隣接する店舗の扉の把手は回して引くノブ状のもので、その形態が全く異なっていること(検二・写真13、同二二七、同二二九)、H証言中には隣接店舗との扉の取り間違いを窺わせる事情は全く顕れていないことを併せ考慮すると、右検察官の主張は採用できない。

ところで、Lの検察官調書(検一六)及び警察官調書(同一五)には、「甲野ビル六階の自宅で就寝中、火災報知器のベルが鳴る音を聞き、同ビル一階に下りた。被害店舗道路側出入口付近に行ったところ、被害店舗の火災を現認したため、消火活動をしようと思ったが、このとき初めてマスターキーを持ってきていないことに気付き、右自宅に戻って被害店舗の駐車場側出入口の鍵を開けることができるマスターキーを取ってきた。同出入口付近に行ってマスターキーを使用して同出入口を開けたが、その際気が動転していて、開いていたのを一旦閉め再度開けた感じであった。」との供述記載があるところ、検察官は、この供述記載に照らせば、被告人の自白どおり右出入口の鍵は開いていたと認められると主張する。しかし、右各調書には、道路側出入口には鍵を持たずに駆けつけた同人が、何故駐車場側出入口の様子は見ずに六階の自室へマスターキーを取りに戻ったのか、あるいは、その際H、Gらから同出入口が施錠されて開かない旨聞いて戻ったのか否かについての説明がないほか、甲野ビルの管理者である同人が、同ビル内の店舗の扉が施錠されているかどうか鍵を差し込んでもわからなかったというのはそもそも不自然である上、一方で鍵を開けて店内に入ったとしながら、他方で開いていたのを一旦閉め再度開けた感じがしたという曖昧なものとなっていること等に照らすと、同人の右供述記載は必ずしも信用することができず、右検察官の主張は採用できない(なお、被害店舗の経営者であるFは、右出入口の扉は火災当時からかなり力を入れて引っ張らないと開かない感じであったと供述している《検二二九》が、右供述の調書は平成七年一〇月二五日になって作成されたもので、それ以前の同人の調書や公判供述にはこの点は全く触れられていない。)。

したがって、発火直後の同店舗駐車場側出入口の鍵の状況についても、被告人の新自白の信用性には疑問の余地があるといわざるを得ない。

(三) 被害店舗内に被告人が犯人であることを示す証拠が何も残されていないことについて

被告人の新自白中には、「犯行当日に実施される予定の税務調査を中止させる目的で、自宅において本件放火の実行を決意し、甲野ビルに赴いた。被害店舗近くの同ビル壁面に取り付けられているメーターボックス内でぼろ布を発見したため引き出し、これを抱えて被害店舗内に入った。さらに、物置内の灯油のポリ容器を発見したので、ぼろ布を物置の扉を開けた入り口のすぐ外に置いて、同容器を持ち上げ、ふたを開け、同容器を傾けてぼろ布に灯油をかけた。ドボドボといった感じでかけたが、どのくらいの量であったかははっきりしない。その後、同容器のふたを閉めてこれを元の位置に戻した上で、ぼろ布を引きずって同店舗内中央付近に行った。同店舗内でマッチを探したが、見当たらなかったので、同ビル二階にある会社事務所に行ってマッチ箱を持参して同店舗に戻り、物置内から新聞紙を手に取って、これにマッチで火をつけてぼろ布に着火させて火を放った。煙が上がってくるのを見て怖くなり、急いで同店舗から逃げ出した。」などとする供述記載がある一方で、格別自己が犯人であることが発覚することを防止するための措置を講じたとの供述記載はない。このような自白内容に照らすと、被害店舗内に被告人の指紋あるいは足跡などが残留しているのがむしろ自然というべきであるところ、三のとおり本件においては被告人が犯人であることを示す物的な証拠がないのであって、不自然というほかない。したがって、この点においても、被告人の新自白の信用性は疑わしいといわざるを得ない。

(四) 放火の用に供された材料入手について

被告人の新自白においては、自宅で本件犯行を決意したが、放火の用に供する材料は全く用意せず、かつその確実な入手の見込みもないまま、被害店舗に赴き、それからぼろ布をメーターボックスの中から発見し、店内の物置内から灯油を見つけ、同ビル内にある会社からマッチを持ち出して放火行為に及んだとされている。放火をしようと事前に計画した者の行動としては、その確実な実行を期するという意味において不自然といわざるを得ない。被告人の新自白中には、なぜこのような方法によったかの具体的な説明も見当たらないことにも照らすと、自己が犯人であるとする自白の信用性にも疑問を入れる余地が残る。

4  ところで、被告人の新自白中には、本件放火の動機は、犯行当日実施される予定の税務調査により、自己の行っていた横領行為が発覚することを防ぐため、右予定を妨害することにあった旨の供述記載がある。これ自体、一見すると放火の動機として合理性があるようにもみえる。

しかし、なお同自白を検討すると、被告人の目的は、被害店舗で火事騒ぎを起こして当日の税務調査を延期させる程度であったということろ、3(三)の自白内容、ことに、被告人には灯油の使用量が明確に認識できなかったこと、ビルの一階の店舗内で布に火を放ったこと等からすれば、火勢の調節が困難であって重大な結果が生じるおそれがあったと認められることなどを考慮すると、その犯行態様と右目的の間に若干の飛躍がある。

さらに、関係証拠によれば、被告人の横領行為は、昭和六三年ころから行われていたところ、同年及び平成元年にも会社に対しての税務調査が実施されたものの、その際には被告人の横領行為は発覚しなかったと認められ、そもそも被告人に税務調査妨害の必要性があったかについても疑問が生じるのである。

以上の点からすると、本件放火の動機として、被告人の自白する右の動機が合理性を有するか否かについては疑問の余地があるといわざるを得ない。そして、四1のとおり、被告人の捜査段階における自白においては、動機に関する供述に変転があったところ、その変転後の供述内容の合理性にすら疑問があることからすると、自己が犯人であるとする被告人の新自白全体の信用性にも疑問が生じるのである。

5  つぎに、検察官は、G及びH証言並びにI子の供述は、被告人の捜査段階における自白の信用性の担保となっている旨主張するので、以下この点について検討する。

(一) G及びH証言について

G及びH証言によれば、火災発生直後被告人が2(三)のとおりの言動を取っていることが認められ、被告人も捜査公判各段階を通じてこれに一致する供述をしている。

しかし、右言動は放火行為に直結するものではなく、その意味では過大に評価されるべきではない。かえって、右G及びH証言を子細に検討すると、被告人が窓を開けて話しかけてきた際の状況について詳細に証言する一方で、その際に灯油の臭い等はしなかったと明確に証言しているところ、3(三)の自白内容にある放火方法を前提とすると、右状況下で灯油の臭いがしないのはむしろ不自然と考えられる。また、Gは、火災報告器の鳴る音を聞いた直後に自動車のエンジンをかける音を聞いた旨明確に証言しているが、被告人の新自白(検四四)においては、これとは逆に、被告人は、自動車のエンジンをかけ発進させた後に、火災報告器の鳴る音がしたとしており、両者に食い違いが生じているのであって、その他関係証拠をみても、このような食い違いの原因を合理的に説明することはできない。

以上からすると、右G及びH証言は、必ずしも被告人の新自白の信用性を担保するとはいいがたい。

(二) I子の供述について

I子の検察官調書(検一〇九)には、被告人と同房であった同人が被告人から津福の店舗に放火した事実を聞かされた旨の供述記載があり、被告人の新自白の信用性を担保しているかにみえる。

しかしながら、I子が被告人から聞いたという放火についての具体的内容を検討すると、その動機は理髪店の経営者の妻にいじめられた仕返しのつもりというものであり、放火の方法についても新聞紙に灯油を撒いて火を点けたというものであって、これらはいずれも被告人の新自白におけるそれとは明らかに異なっている。また、右検察官調書は、一〇三号調書と同じ日の平成四年七月二三日に同じ検察官により作成されたもので、一〇三号調書を補強しようとの意図で作成されたものであると考えられるところ、I子は公判では被告人から聞いたとする内容についてほとんど供述できなかったことにも照らすと、右検察官調書は同人が右検察官の取調べに迎合し誘導されて供述し、作成された疑いがあるというべきである。以上からすると、被告人から放火をしたと聞いたとする右供述記載は信用することができず、したがって被告人の新自白の信用性の担保とはなり得ない。

6  なお、被検者を被告人とするポリグラフ検査結果回答書(検九五)には、一部被告人の新自白の内容に合致する特異反応があるとする判定結果が記載されているが、他方で、被害店舗に入る際に使用した鍵の入手方法等重要な点について、同自白内容に合致しないような特異反応があるとの判定結果もあること、このポリグラフ検査が実施されたのは本件火災後約二ヶ月の後であって、被告人自身火災の状況等について他から聞知し相当程度知識を有していた時期であると思われること等を考慮すると、同回答書は、被告人の新自白の信用性を補強するものとはいいがたい。

7  以上検討した結果を総合すると、前記自白以外の証拠により認められる各事実とこれに関する被告人の新自白の内容には見逃しがたい不一致があるほか、同自白内容自体にも不自然不合理な点がみられるのである。確かに、1の検察官の主張のとおり、同自白中の放火状況についての部分、ことに、ぼろ布を発見した経緯、マスターキー、灯油及びマッチの準備状況等には、犯人でなければ供述し得ないのではと思われる点も含まれているけれども、それでもなお以上の点に照らすと、被告人の自白の信用性については疑いがあるといわざるを得ない。そして、その他被告人の新自白の信用性を担保するといい得る証拠もないことも考慮すると、これをもって公訴事実の認定の資料とすることは許されないものと思料される。

六  ところで、五2(三)(五)記載の被告人の言動は、被告人が犯人であることを疑わせる事情というほかない。すなわち、被告人が火災現場付近で火災発生直後に取った行動については、そもそもこれが深夜のものであること、被害店舗の入ったビルに自己の勤務先があり、知人も居住しているなど、被告人が同ビルに強い利害関係を有することに照らすと不自然であり、当日の出勤に際して赤の自動車が疑われていることを知って電車による出勤に変更したことについても、被告人が犯人でなければ特にその必要はないと考えられることからして、やはり不自然であるといえるのである。

この点、被告人は、公判において、深夜同ビル付近にいた理由について、当日は寝つけなかったので、持ち帰っていた書類を返そうという気持ちで会社に行ったものであると弁解する。しかし、この弁解によっても、深夜の行動であることの不自然さは拭いきれず、かつ、本件当日は出勤日であって、そのような時刻に自宅から勤務先まで出掛けてきて右書類を返還する必要があったとは思われない。これに加えて、被告人は捜査段階では右のような弁解をしておらず、弁護人に対してすら起訴後になって初めて話したと供述していることをも考慮すると、右弁解は、全くあり得ないことではないにせよ、信用することはできない。

しかしながら、このような不自然な行動という情況のみをもって、被告人が本件放火の犯人であると断定することはできない。もとより、これ以外に被告人の犯人性を基礎づける証拠等があれば、これと相まって右情況が犯人性の認定に価値を有することになるのは明らかである。しかし、被告人の新自白が信用できず、その他有力な証拠が見当たらない本件証拠構造の下においては、右情況は被告人の犯人性認定に何ら意味を有さないというほかないのである。

七  結論

以上検討してきたように、被告人の放火を認める自白の信用性には合理的な疑いを入れる余地があり、その他に被告人が犯人であることを合理的な疑いを入れる余地なく認定するに足りる証拠がない。よって、被告人に対する非現住建造物等放火の公訴事実については結局その立証がないことに帰するので、右事実については無罪を言い渡すべきものと認められる。

(量刑の理由)

本件業務上横領の犯行は、被告人が被害会社の経理事務をほぼ一手に引き受けている状況の下、同会社側の監督が不十分であることに乗じて、継続的かつ常習的に同会社の金銭を着服して横領してきたものであって、その犯行態様は大胆かつ悪質である。横領した金額も合計一八〇〇万円近くと多額であり、現在のところこの弁償等被害会社に対する慰謝の措置は講じられていない。以上のほか、同会社側の被害感情はいまだ強いものがあること等にも照らすと、本件の犯情は悪く、被告人の刑事責任は重い。

一方、被害会社側の監督が不十分であったことは、被告人による本件犯行を容易にした原因の一つというべきであり、この点で同会社側に一定の落ち度があること、被告人は公判において、横領行為の一部につき不合理な弁解をして否認しているものの、本件一連の犯行については、深く考えることなく、同会社の金銭に手をつけて申し訳なかった旨述べて、一応反省の情を示していること、そのあらわれの一つとして、被告人には被害会社に対して横領金を弁償する意思が認められること等、被告人にとって斟酌すべき事情も存するところである。

別紙 犯罪一覧表(一)

番号、預金払戻し年月日(平成・年・月・日ころ)、払戻し金額(円)、横領金額(約 円)

1、三・九・一九、六五〇、〇〇〇、六〇〇、〇〇〇

2、三・九・二五、五、七三九、一六一、二〇八、〇九一(内七〇、〇〇〇円は、株式会社乙山銀行津福支店において、当時の夫Nら家族名義の同支店口座に振替入金して着服)

3、三・一〇・八、四〇〇、〇〇〇、四〇〇、〇〇〇

4、三・一〇・九、一、三二四、八六二、一、〇〇〇、〇〇〇

5、三・一〇・一六、五〇〇、〇〇〇、五〇〇、〇〇〇

6、三・一〇・二五、四、二三〇、〇七六、九一〇、〇〇〇(内七〇、〇〇〇円前同)

7、三・一一・二五、五、〇二三、一四七、九二三、一〇〇(内七〇、〇〇〇円前同)

8、三・一二・九、二、六八〇、五七五、二、五二〇、〇〇〇

9、三・一二・一二、二四六、六六八、一九〇、〇〇〇

10、三・一二・一三、五、四九四、〇一六、五二〇、〇〇〇(内三〇、〇〇〇円前同)

11、三・一二・二五、四、九四二、二六九、五二三、〇九一(内七〇、〇〇〇円前同)

12、四・一・二四、四、九五八、〇七二、九〇四、九八一(内一〇〇、〇〇〇円前同)

13、四・二・二一、四〇〇、〇〇〇、三〇〇、〇〇〇

14、四・二・二五、三、六〇七、四七四、三七〇、六六五(内七〇、〇〇〇円前同)

15、四・三・二、三七、七二五、三〇、〇〇〇

16、四・三・二五、四、一五七、四〇〇、九二三、一〇〇(内七〇、〇〇〇円前同)

17、四・三・二七、一五〇、〇〇〇、九〇、〇〇〇

18、四・四・二四、四、五九九、二八九、九二三、一〇〇(内七〇、〇〇〇円前同)

19、四・五・二五、四、七七七、九三一、八六三、七二七(内七〇、〇〇〇円前同)

20、四・六・五、一、二〇〇、〇〇〇、一、二〇〇、〇〇〇

21、四・六・八、一八、四八二、九三四、一、五〇〇、〇〇〇

22、四・六・二五、四、五〇三、五〇二、九二三、一〇〇(内七〇、〇〇〇円前同)

横領金額 合計約一、六三二万二、九五五円

犯罪一覧表(二)

番号、預金払戻し年月日(平成・年・月・日ころ)、払戻し金額(円)、横領金額(円)

1、三・九・二五、五、〇二〇、四五七、一三〇、〇〇〇

2、三・一〇・二五、一、六八九、六〇四、一三〇、〇〇〇

3、三・一一・二五、二、四八六、八九三、一三〇、〇〇〇

4、三・一二・二五、七、七三六、八九一、一三〇、〇〇〇

5、四・一・二五、一、四一一、八九〇、一三〇、〇〇〇

6、四・二・二五、一、九三〇、六六〇、一三〇、〇〇〇

横領金額 合計七八〇、〇〇〇円

ところで、被告人は、非現住建造物等放火事件につき長期間にわたって勾留され、あるいは同罪の被告人として長期間にわたって審理を受けることを余儀なくされたところ、主文及び前記判断記載のとおり、同事件は無罪とすべきものであることからすると、右勾留等により被告人は不当な不利益を受けてきたといわざるを得ない。この点も、量刑上被告人のために斟酌すべきものと考えられる。

以上の諸事情のほか、本件に顕れた被告人にとって有利不利の全ての事情を総合考慮すると、前記のとおり被告人の刑事責任は重大であるとはいえ、なお被告人に対して実刑をもって臨むことには躊躇を覚えざるを得ない。よって、被告人には主文のとおりの刑を科し、その執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役五年)

(裁判長裁判官 坂主 勉 裁判官 吉崎佳弥)

裁判官 伊藤新一郎は転補のため署名押印できない。

(裁判長裁判官 坂主 勉)

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